そういち総研

世界史をベースに社会の知識をお届け。

おすすめできる、大人のための世界史の通史の本

「低コスト」の「手堅い本」をご紹介

ときどき、「世界史の本で何かおすすめはありませんか?」と聞かれます。私そういちとしては、自分が書いた世界史の通史の本があるので、まずはそれをおすすめしたいのが本音です。でも、ご質問は「あなたの本以外で何かないか」ということなのでしょう。 

ブログの著者そういちの最新刊(2024年2月刊、PHP文庫)

上記文庫本の元になった親本。文庫版はこれを改訂・増補しています。

一気にわかる世界史

一気にわかる世界史

 

 
この記事では、初心者のために「世界史の通史」のおすすめの本をご紹介します。「通史」とは、古代から現代までを述べているということ。ただし「初心者」といっても、きちんと地道に学びたいという、それなりの意欲がある人向けになっていると思います。

10冊余りを取り上げていますが、「あれも読もう、これも読もう」というのではありません。これらのうち1冊だけでもきちんと読むことができたら、相当な勉強になるでしょう。


そのセレクトについては、つぎの条件を「縛り」にします。

① 比較的安価で入手しやすい(できれば文庫や新書、そうでなくても2000円以内)
② 「歴史学者」が書いている 

これは、あくまで「原則」で、多少の例外はあります。

一方で、その本がやや昔に出た本であることや、地味な記述で「目からウロコ」みたいな刺激が得られないことは気にしません。一部の「通」な人(あるいは「通」でありたい人)が批判したくなるような「浅さ」とか、最新の学説や異なる歴史観などからみれば目につくような「欠点」も、あまり気にしないことにします。

ある分野に入門するための本で大事なのは、その分野についての系統だった知識が、うんざりしない程度の分量で、素人にも読めるように書いてあることです。

そして、そこに書かれている知識が正確なこと。これは、完全でなくてもいいから、現代の学問の水準に照らして「ほぼ正確」なら合格です。そこで、まずは「学者」といえる人の手堅い本で、比較的読みやすいものを読むのがいいと思います。

ところが、ネットでみていると、「おすすめの世界史本」といった記事で紹介されるのは、「歴史・教養読み物のライター」といえる人の本(おもにビジネス書の出版社から出ている)が比較的多いようです。私もそうしたライターの一人ではあるので、その手の本を否定するわけではありません。私の本も含め、ぜひ読んでみてください。しかし、そういう「ライターによる本」以外の、歴史学者が書いた本も手にとってみて欲しいです。そこにはやはり本格的な読書の喜びがあるはずです。

 

見栄を張らないことは大事

そして、もうひとつぜひ意識してほしいのが、「見栄を張らない」ということです。

ある質問サイトをみていると、「世界史のおすすめの本は?」という質問に、答えとして全10巻とかのシリーズ本をあげている人がいました。じつは、その質問をしている人は大学生で、なんと私の本(『一気にわかる世界史』)を買おうか迷っている……と書いてありました。

それに対し、答えを書き込んだ人は「そんな安直な本でなくて、もっと本格的なものを読もう」と言いたかったようです(安直な本じゃないんだけどなあ…)。

でも、初心者に全10巻のぼう大なものを読み通すことは、まずできません。それでも「本格的なものを」と思って、自分のキャパを超える本を手にとって挫折する人も、結構いるわけです(私にも身に覚えがあります)。

あと「見栄」というよりも「向上心」ですが、「知の最先端を知りたい」という気持ちがあります。そこで、「知の巨人」的な著者が、文明や人類のあり方についてするどく考察した、という感じの本を手に取る。具体的にいうと、最近ではたとえば『サピエンス全史』(ユヴァル・ノア・ハラリ著)みたいな本です。

これも、もちろん否定しませんし、私自身もその手の本を読むのは好きなのです。しかし、一方で手堅いタイプの、歴史の基礎知識を与えてくれる本も、「目からウロコ」の刺激は少ないかもしれませんが、ぜひ読んでみてください。歴史の基礎知識があまりに不足していると、「知の最先端」の議論もよく呑み込めないでしょう。また、もしもその本が「ニセモノ」だったとしても、気がつかないでダマされてしまう。

それから、アマゾンのレビューなどでたまにみかけるのですが、「上から目線」で否定するというスタンスにも気を付けましょう。「この本は浅い、初心者向け」「ここに書いてあることくらい私は知っている」さらには「この著者よりも私のほうが知っている、この著者はわかっていない」みたいな調子で低評価をするレビューがあるのです。そこには「私は、こんな本よりもレベルが上なんだ」と主張したい「見栄」を感じます。

そのようなレビューには、正当なものももちろんあるとは思います。でも、初心者はそれにあまり影響されないように。その分野で名の通った著者の書いたものであれば、「異説や欠点があったとしても、まずは信用して読んでみよう」というスタンスをおすすめします。

前置きが長くなりました。それでは、「本題」である本の紹介をしましょう。

 

① ウィリアム・H・マクニール『世界史』(上・下)中公文庫 

世界史 上 (中公文庫 マ 10-3)

世界史 上 (中公文庫 マ 10-3)

 

 

世界史 下 (中公文庫 マ 10-4)

世界史 下 (中公文庫 マ 10-4)

 

 
世界史の通史の本で、第一におすすめです。著者は「歴史学者」というよりも「世界史学者」といったほうがいいかもしれません。「歴史学者」というのは、たとえば「中世フランスの〇〇について」みたいな専門テーマを持っているのが普通ですが、マクニールは世界史を幅ひろく見渡す仕事を中心としてきた学者です。そこで彼を「歴史学者」とは言わず「世界史教育の研究者」だという人もいる。しかし、私は「世界史学者」というのも歴史学者の一種だと思っています。

じつは世界史の「通史」のきちんとした本は少ないです。ここで世界史の「通史」というのは、「文明の始まりから現代までを、世界の広い範囲に目を配りながら、ひと続きの大きなストーリーとして描いている」ということ。

この本は、それにある程度成功しています。一方、世界史の「通史」をうたっている本でも、たくさんの「断片」「エピソード」を時代順に並べた、というものもかなりあるのです。それは「通史」とはいえないのでは、と私は思っています。

ではなぜこの本が、そのような「ひと続きの大きなストーリー」として世界史を描けたのかというと、その書き方の方法にポイントがあります。それは「世界史を、時代ごとの中心的な国や民族に焦点をあわせて描く」というものです。

マクニールは、世界史の各時代には“他に抜きんでて魅力的で強力な文明”が存在し、“その文明の中心から発する力が世界をかく乱”してきた、そして“かく乱の焦点は時代とともに変動”してきたと述べています。

そこで「世界史をみるには、まず各時代のかく乱が起こった中心をみればいい」というのです(同書上巻36~37㌻)。こうした「中心の移り変わりをみる」という世界史の書き方は、私そういちの著書『一気にわかる世界史』でも、行ったやり方です。これに対し、世界史の教育では、「あれもこれも」と、さまざまな国や民族をとりあげようとするあまり、歴史の大きな流れがつかみにくくなる傾向があるのです。

この本はたしかにおすすめできるのですが、上下巻あわせて本文が800ページくらいあって、活字も小さめで、かなりのボリュームです。訳文も残念ながら読みやすいとはいえません。読みとおすのにそれなりのエネルギーが要るでしょう。でも、読む価値はあると思います。

もし、マクニールの本が「ムリ」と思うなら、もっと短い通史としてつぎの本があります。

② クリストファー・ラッセルズ『いちばんシンプルな世界の歴史』日本能率協会マネジメントセンター  

いちばんシンプルな世界の歴史
 

 

著者のラッセルズは、歴史学者ではなくここでいう「ライター」です。しかし、比較的最近に出版された世界史の「通史」といえるもので、手堅く一定の読みやすさで書かれています。西洋史の比重が高いので、不満な人は中国やイスラムなどについては別の本で補いましょう。帯にある「1冊で“あの国”がくっきり見えてくる!」というコピーは意味不明ですが、おすすめです。私としては個々の記述で不満な箇所もないわけではない。でも、こういうコンパクトな「通史」は、とくに近年の本では限られているので、まあ良いかと。上記のリンクはkindle版ですが、紙の本の中古があります。

 

③浜林正夫『世界史再入門』講談社学術文庫 

 

著者は近代イギリス史の、今よりも一世代前の有力な研究者。こういう、プロの歴史学者が文明の始まりから現在(1990年代)までについて、教科書のようにいろんな地域やテーマを網羅して、1人で世界史の通史を書いたというのは(少なくとも近年は)珍しいです。幅広い国や時代を扱った歴史の本は、たいていは複数の著者による共著です。高校までの教科書や、大学の教養課程のテキストに用いられるような本はそうです。

1人の学者が世界史について述べた本も、ないわけではありません。しかし、この本のようにいろいろ網羅してはいません。たいていは、世界史全体のうちの、その学者の得意なテーマや切り口について述べているだけです。本来、世界史の通史を書くのは大変なことなので、おいそれとはできないのです。

1人で書いた本というのは、表現がこなれていて、読みやすいです。何を述べるか・述べないかについてのメリハリもあります。これに対し共著は、いろんな調整が働いて、ぎこちなくなることが多いです。少なくともこの本の場合は「1人で書いた良さ」が出ていると、私は思います。

しかし、この本のアマゾンでのレビューは低評価です。「いろんな知識を並べているだけ」「高校の教科書レベルで浅い」「これなら教科書を読んだほうがいい」といったことが書かれている。これは厳しすぎる評価だと思います。たしかにこの本で、新しい世界史像が大きく開けてくるようなことはないでしょう。それを期待してはいけない。でも、高校教科書よりはよほど読みやすい文章で、幅広い教科書的な知識を学ぶことができる。コンパクトな、300ページ余りの文庫サイズというのも便利。そういう効用のある本だと思って読みましょう。それから、「世界史に関して高校教科書程度の知識が本当に身についているなら、それは相当な博識だ」と思います。アマゾンでは古本が二束三文で出ています。

 

あと、教科書系でおすすめなのが、


④木村靖二・岸本美緒・小松久男『詳説 世界史研究』山川出版社 

詳説世界史研究

詳説世界史研究

  • 発売日: 2017/12/03
  • メディア: 単行本
 

 
最も普及している高校世界史教科書の参考書版。編著者は日本の有力な歴史学者たち。教科書そのものや、あるいは教科書を大人向けの読み物に編集しなおした『新 もういちど読む 山川世界史』よりも、この『詳説 世界史研究』のほうがおすすめ。

『詳説 世界史研究』は教科書の2倍以上の分量がありますが、教科書の圧縮された記述よりも詳しく書かれているので、説明としてかえって読みやすいところがあります。図版もかなり豊富。

ただ、細かい文字がびっしり詰まった500ページ以上の本なので、通読は大変です。「古代ローマ」「フランス革命」「世界大戦」といった個別テーマに関係のある章だけを読む、後半の近代史以降だけをまずは読むといった方法が良いでしょう。索引を活用すれば、事典のように使うこともできなくはない。値段は2500円(税別)なので、「2000円縛り」をオーバーしますが、世界史の知識がぎっしり詰まった、まさに「通史」で、コスパの良い本。

  

以下、世界史の通史ではありませんが、とくに重要な国・地域について長期にわたる歴史を概説した本を紹介します。

 

⑤ 宮崎市定『中国史』(上・下)岩波文庫 

中国史(上) (岩波文庫)

中国史(上) (岩波文庫)

  • 作者:宮崎 市定
  • 発売日: 2015/05/16
  • メディア: 文庫
 

 

著者は東洋史における京都学派(京都東洋史学)の巨匠といえる、昭和に活躍した中国史家。学問の世界では京大の学者たちによる、哲学その他のさまざまな分野の「京都学派」というのがあるのです。本書では、まず「歴史とは」「時代区分とは」「古代とは」「中世とは」…といった理論的な枠組みを説明したうえで、文明の始まりから毛沢東の時代までの通史を述べています。その展開は堂々としたもので、立派な学者だと感心します。文章は昔の学者の語り口ですが、それでも生き生きしていて読みやすいです。

京都学派(東洋史)の特徴は、第二次世界戦後、多くの歴史学者たちがマルクス主義的な「世界史の基本法則」なるものに強い影響を受けたのに対し、それとは距離をおいて研究をすすめたこと。マルクス主義の教義にあわせて中国史を解釈するのではなく、独自に中国史を探求し、時代区分論などの枠組みを構築していったのです。これは学問としては正しい姿勢だったといえるでしょう。ただし最近はそういう「学派」としての特徴は薄れたようです。京都学派の中国史家の本は、私は頭に入りやすいと感じています。

 

⑥ 寺田隆信『物語 中国の歴史』中公新書 

物語 中国の歴史―文明史的序説 (中公新書)

物語 中国の歴史―文明史的序説 (中公新書)

  • 作者:寺田 隆信
  • 発売日: 1997/04/01
  • メディア: 新書
 

 

著者は宮﨑市定よりも一世代あとの京都学派の中国史家。コンパクトな中国史の通史としておすすめ。膨大な中国史を的確に要約し、さらに限られた分量のなかに、教科書的な知識以上の見解や情報を盛り込もうとする姿勢も、随所にみられます。著者の学者としての力量を感じます。

話の流れの都合から宮﨑市定の本を先に紹介しましたが、本来はこの本を中国史では第一にあげてもよかったかもしれません。ただし扱うのは清王朝の滅亡までで、近代史は対象外。


最近出た、比較的読みやすい中国史の通史としては、つぎのものがあります。

⑦岡本隆司『世界史とつなげて学ぶ 中国全史』東洋経済新報社 

世界史とつなげて学ぶ 中国全史

世界史とつなげて学ぶ 中国全史

 

 

 著者は今の世代の「京都学派」といえる中国史家(京大の東洋史学科出身)。教科書的な手堅さや基礎知識を網羅するという面はやや弱いですが、その分中国史の見方・考え方についての話が盛り込まれています。タイトルにある「世界史とつなげて」という面は、それほどでもないです。

 

イスラム史についてもご紹介します。


⑧佐藤次高・鈴木薫編『都市の文明イスラーム 新書イスラームの世界史①』講談社現代新書 

 

イスラム教やイスラム国家の誕生とその繁栄までの経緯、その世界史における重要性について基礎知識を得るのに良いです。30年近く前の本ですが、出版当時、このように内容の豊富な概説書が新書という手軽なかたちで出たおかげで、世界史やイスラムに関心のある読書家にとっては勉強の助けになりました。若い頃の私も、本書でそれまで知らなかったイスラムの歴史について多少とも知るようになった一人。

本書は600年代のイスラム成立から1400年代の頃までが対象。近現代までのイスラム史をカバーするには、このシリーズ(新書イスラームの世界史)の第2巻『パクス・イスラミカの世紀』と第3巻『イスラーム復興はなるか』を読む必要があります。

3冊も読めない、1冊でイスラムの1400年ほどの歴史を見渡したいというのなら、


⑨カレン・アームストロング『イスラームの歴史 1400年の軌跡』中公新書 

 

イスラムについては「危険な恐ろしい宗教」という見方がある一方、「実は平和の宗教」という面を強調する立場もあります。本書は後者の立場で書かれています。そこで、反対者からは批判の対象であり、私もイスラムを単なる「平和の宗教」とは思いません(しかし「危険」を煽るのは反対です)。とはいえ、歴史の基本知識を得るには、コンパクトにまとめてあり、文章も読みやすいので良いかと。

「イスラムとは」という基本を知るうえでは、小杉泰『イスラームとは何か』講談社新書 もおすすめ。「イスラムは危険か平和的か」などの政治的主張に深入りせずに、重要な基礎知識を教えてくれます。 イスラム成立の歴史も知ることができます。

 

  

つぎに、古代オリエントや古代地中海世界(古代ギリシアやローマ帝国など)を概観する本を。

 

⑩ 本村凌二・中村るい『古代地中海世界の歴史』ちくま学芸文庫 

古代地中海世界の歴史 (ちくま学芸文庫)
 

 
著者の1人の本村さんは、ローマ史の著名な研究者。紀元前4000年頃のメソポタミア文明の成立から、西暦400年代の西ローマ帝国の滅亡までの、地中海を囲む地域の長期にわたる歴史が、200数十ページの文庫にまとめられています。たいていの場合、紀元前の古代オリエント文明と古代ギリシア・ローマの歴史は別々の本になっているものです。しかし本来、両者の文明のあいだには深い関係や連続性があるので、このように1冊にまとめたのは良いと思います。

 

⑪ 村上堅太郎・長谷川博隆・高橋秀『ギリシア・ローマの盛衰 古典古代の市民たち』講談社学術文庫 

 
少し前の時代の権威によって、古代のギリシア史とローマ史が1冊にまとまっています。じゃあ「最新」ではないから良くないのかというと、それはちがいます。政治・経済、生活文化などのさまざまな項目についてきちんと触れてあって、現在も通用するいろいろな知識が得られる本です。少し前の時代の学者が書いた本には(すべてがそうではありませんが)そういう「きちんと」したところがあります。

 

世界の近現代史については、今回の「縛り」に沿った本がなかなかみあたりませんが、つぎの本をご紹介します。

 

⑫ウィリアム・ウッドラフ『現在を読む 世界近代史 アジアを基軸として』TBSブリタニカ 

 

200数十ページでコンパクトに1500年代以降から1950~1960年代頃までの世界情勢について述べている本。1990年発行の古い本なので、アマゾンの古本などで二束三文で売られています。この範囲の歴史をこの分量で、学者が書いている本というのは意外と少ないので、お買い得です。

 

以上、何冊かご紹介しましたが、もしもこれらの本について「読むのが大変そうだ」と感じる、まったくの初心者の方は、私そういちのつぎの著作も手にとってみてください。この本は、きわめて簡略化された世界史の「通史」の本で、まったく知識のない人にも読み通せるように書かれています。この本を読んでから、ここでご紹介した本を手に取るのもいいかと思います。 

 

関連記事 

 

このブログについて 

blog.souichisouken.com