なぜ世界史の勉強はむずかしいか
学校の授業でも、教養目的でも、世界史は勉強がむずかしいといわれます。なぜでしょうか。それは、対象範囲がきわめて広いからです。なにしろ対象が「世界」です。出てくる国や民族、事件や年号が膨大です。
そして学校の教科書では、その膨大なものをできるだけ幅広く扱おうと努めています。これは、どんな文化も国家も対等に扱おうとする「多文化主義」という思想の影響によるものです。この多文化主義の考え方に立てば、特定の大国ばかりを扱うのは不当なことで、周辺的な人びとについてもきちんと触れるのが、「正しい」歴史の書き方だということになるのです。
でも、そのおかげで教科書は分厚くなり、学ぶ側は混乱してしまう。世界史というジャンルは、とっつきにくいものとして敬遠されがちです。「歴史好き」の人たちの多くは、世界史よりも日本史に関心があります。
世界史を学ばないのはもったいない
でも、それはあまりにもったいないです。世界史は自然科学と同様、世界の成り立ちについての基本的な学問です。また美術や文学、政治、経済などのさまざまな教養の基礎になっています。どの分野の作品・コンテンツに触れても、世界のどこを旅しても、世界史の基礎的な知識があるのとないのとでは理解がまったくちがってくるでしょう。
つまり、世界史を学ぶと、しっかりとした教養全般の土台ができて、さまざまなジャンルへの理解がすすむのです。これは、世界史の大きな効用です。
そしてそもそも、世界史ほど「知る」喜びの大きな分野は少ないのではないでしょうか。人類がどのような経緯で今に至ったのか。それを知ることは、本来ならワクワクする知的な楽しみのはずです。私は、世界史を学ぶ最大の効用は「とにかく楽しい」ことだと思っています。
でも現実の世界史の教育・啓蒙では「あれもこれも」と詰め込みすぎて、混乱を生んでいます。現実には世界史の勉強は、ちっとも楽しくないわけです。
だから、大人が世界史を学ぶ場合には、「あれもこれも」と詰め込み過ぎないこと、すべてをおさえようとしないことが大事なのです。そのあたりのポイントを、以下述べていきます。
ポイント1 大まかな時代と出来事を押さえる
大人が世界史を学ぶ場合には、こまかい年号や固有名詞にとらわれてはいけません。まずは大まかな時代や時期、内容をおさえることです。そのうえで興味があるなら、こまかく勉強していけばいいのです。
年号については、たとえば西ローマ帝国の滅亡は西暦476年ですが、まずは「400年代後半」とざっくり覚えれば大丈夫です。中国のおもな王朝についても、成立や滅亡の年号を暗記するより、まずは最盛期をざっくりとおさえることです。たとえば「唐王朝が繁栄したのは600~700年代」「宋の最盛期は1000年頃、元は1300年頃」といったふうに。これは、ほかの国家・王朝についても同じです(ただし、「いつ頃が最盛期なのか」をきちんと説明している信頼できる本・記述をみつけるのに若干手間がかかるかもしれません)。
君主や教皇などの人名も、ほとんどの場合覚える必要はありません。初心者が覚えるとしたら、アレクサンドロス大王、秦の始皇帝、カエサル、ナポレオン、レーニン、ヒトラー、毛沢東といった世界史全体もしくは現代史の大きな流れにおける超大物だけで十分です。そういう人物が世界史には何十人かいます。
「ローマ教皇グレゴリウス7世」「ハインリッヒ4世」みたいな枝葉の人たちの名前は、無理にインプットしないことです。それらの人物については「カトリック教会の絶頂期(1000年頃)における教皇の1人」「その当時のドイツを支配していた王様」といったふうに抽象化すればいい。
なお、年号についてもとくに重大ないくつかの出来事は、具体的な年号をおさえたほうがいいです。たとえばイギリス革命1640年~、アメリカ独立宣言1776年、フランス革命1789年~といった重要な革命の年号はそうです。第1次世界大戦1914~1918年、第二次世界大戦1939~1945年などもそう。しかし、その数は世界史上の「超大物」人物と同じで、ごく限られます。
ポイント2 それぞれの時代の中心的な大国を知る
世界史では、時代ごとにとくに繁栄した「世界の中心」といえるような大国・強国が存在します。それぞれの時代の中心的な大国は移り変わってきました。古代ギリシア、ローマ帝国、イスラムの帝国、唐・宋などの中国の諸王朝、大英帝国を頂点とする西ヨーロッパ、アメリカ合衆国。まずはこれらの国ぐにをおさえるといいでしょう。
たとえば1世紀~200年代にはローマ帝国がとくに繁栄しましたが、その後衰退していきました。その数百年後の600~700年代には、イスラムの帝国が台頭したが、それもまた衰退していく。そのような移りかわりを追いかけていけば、世界史の流れの「幹」の部分をつかむことができます。
しかし、こういう「中心」をおさえる世界史は、今の学者や知識人のあいだでは評判が悪いです。前に述べた「多文化主義」という正義に反するからです。ほかのさまざまな文化・民族をさしおいて、特定の国を「中心」だと別格扱いするなんて……というわけです。
あなたが世界史の勉強で「中心をおさえる」ことを実行しようとしたら、勉強家の誰かが「そのような考えは今の歴史研究では否定されている、古い考え方だ」と言うかもしれません。しかし、無視してください。「中心」をあいまいにして「あれもこれも」と詰め込もうとするから、世界史はわけがわからなくなっているのです。
「中心をおさえる」世界史の具体的な記述は、こちらの記事で
つぎのステップ 興味のある時代、人物を調べる
「中心」をおいかけて世界史の大きな流れをつかむ勉強をしつつ、興味をひかれる時代やテーマ、人物があれば、それをピンポイントで勉強していきましょう。そのテーマの歴史書を読むことです。
個別テーマについては、日本人の学者が書いた新書(岩波新書、中公新書、講談社現代新書など)や、中公文庫の「世界の歴史」シリーズ(新版のほう)あたりでさがしてみることを、まずはおすすめします。あとは山川出版社の「世界史リブレット」のシリーズや、清水書院の「人と思想」シリーズも、個別テーマの入門として役立ちます。文庫では、まずは講談社学術文庫をあたってみましょう(ほかに岩波文庫、中公文庫などいろいろありますが)。たとえば「最も繁栄した時代のローマ帝国について知りたい」「秦の始皇帝について知りたい」「フランス革命について知りたい」というなら、該当する新書や文庫があるのです。
もしも「これといったテーマがない」というなら、20世紀(1900年代)の戦争や革命にかかわった人物がおすすめです。ヒトラーやレーニンといった人物の活動を知ることで、現代社会の源流をたどることができます。
当ブログの著者による具体的な方策
以上をまとめると、こういうことです。
まず世界史の大きな「流れ」、いわば「幹」といえるものをしっかりとおさえることに徹しよう。こまかい事柄にとらわれてはいけない。教科書や概説書が大事そうに述べている情報も、その多くは「枝葉」にすぎないので、ばっさり切り捨ててよい。
ところが今の世界に関する教育や解説では、枝葉が茂り過ぎて、幹がみえなくなっているわけです。
以上は、原則や一般論ということになりますが、私そういちはその一般論に基づく具体的な方策も用意しています。つまり、「こまかい事柄にとらわれず、世界史の大きな流れについて述べた入門書」をすでに出版しているのです。『“中心”の移り変わりから読む 一気にわかる世界史』(日本実業出版社)という本です。全国の書店、アマゾンなどのネット書店で発売中です。
上記の親本を大幅に増補・改訂した文庫版が出ています(2024年2月5日発売)
この本(文庫版の親本)は2016年に出版されました。ベストセラーにはなっていませんが、ネットをみると見知らぬ読者の方々の評価はかなり高いといっていいと思います。アマゾンではカスタマーレビュー(23件)の評価平均は4.4(5点満点で)です(2024年2月現在)。このほか「読書メーター」などほかのサイトでも、好意的なレビューを頂いています。
教科書、学習参考書というのは、どうしても情報を詰め込んでしまうところがあり、読みづらいところがあります。しかし本書『一気わかる世界史』は、大胆に情報を整理するなどして、読みやすさに徹底的にこだわっています。ボリュームも200ページ余り(文庫版は350ページほど、世界史の通史を述べた第2部は150ページほど)で、比較的楽に読み通せると思います。
『一気にわかる世界史』へのレビュー・批評
いただいたレビューをいくつか抜粋しますと……
“「一気にわかる世界史」というタイトル通り、一気に世界の中心の移り変わりと歴史の流れが、俯瞰視点から、おおまかにつかめたような気になりました。(中略)歴史に関心のない方にもぜひお勧めしたい非常に良い書だと思います。”(moririnさん)
“中学高校の世界史の授業最初の2、3コマを使ってこの本を読み進めていったら良いと思う。まず全体を把握して、それから1年かけて細かいところを学んでいけばいい。学生時代にこんな本に出会っていればと思った。”(鯱さん)
“中学、高校、歴史の勉強を全くしてこなかった。本当にしてこなかった、本当にゼロから世界史を勉強するには最強の本。なぜこれだけ知名度が低いのか不思議だ”(けんぞーさん)
“この本は2日で読めます。今では世界史を3分で説明して、と言われてスラスラ説明できるようになりました。”(Mariさん)
“文字通り、世界史が一気にわかった気になります。西洋史でもなくアメリカ史でも中国史でもない、ちゃんと世界史なのです。(中略)学生時代(中・高・大学生の頃)は、日本史は好きだったのですが、世界史のいろんな国やら民族やらが覚えられないで、ついて行けませんでした。でも、こんな風に教えてもらえれば、もっともっと興味を持って世界史を学習できたかも知れないなあと思います”(投稿者名不明)
“低年齢向けなのかな?すごく丁寧にわかりやすく説明してくれている。丁寧だからというだけでなく世界史をとらえる視点「世界の中心、繁栄の中心に注目する」という見方が面白く、成る程なあと思わされる。そうやって見ると確かに世界史にひとつの流れがありとても整理されて世界史が理解しやすくなります。この本で頭を整理してから世界史を学んでいくといいなと思いました”(サイマさん)
“色んな世界史の本を読んできたけど、帯でうたってるだけあって、初心者にわかりやすく書かれた良書だと思う。世界の中心の移り変わりに焦点を当て、そこから現代の状況はどうなのかという流れにすることで、現状況と世界史の関係性が腑に落ちた”(こぼさん)
“この本は周辺革命説を大胆に発展させたとなりとなりの法則で5千年にわたる世界史を一本の幹で説明して、断然面白い。著述は中高生でもわかるように書かれていて、これから世界史を学ぶ中高生や世界史が嫌いだった大人にもおすすめ。5千年の世界史の大河がわかり頭がすっきり整理されるだろう”(有安弘一さん)
みなさま、ありがとうございます。著者の意図や想いが届いたことを本当にうれしく思っております。
ただし、このような低い評価のレビューもありました。
“この本を読んでも、世界史は分かりません。タイトルに騙されてはだめです。世界史を他の本で学習した上で、総まとめで流すには良い。”
これは、著者として自己弁護させてもらうと、この本は「これ1冊で世界史に詳しくなる、世界史の豊富な知識を誇れるようになる」という意味で「世界史がわかる」ことをめざしたものではありません。あくまで、初心者の方がざっくりとした全体像を描けるようになることを意図しています。ぜひ「世界史をほかの本で学習」する前に、本書を手にとって欲しいのです。そして、このレビューの方が述べておられるように、すでにある程度世界史を勉強した人が全体像をおさらいするのにも役立つはずです。
また、レビューではありませんが、今年(2019年)8月末に新宿の紀伊国屋書店本店に買い物に行った際、児童書・参考書などのフロアで、高校世界史の学習参考書にまじって本書『一気にわかる世界史』が複数冊棚に並んでいるのを発見しました。「一応大人向けだが、高校生が世界史に入門するうえで役立つ本」だと評価して置いてくださったのだと思います。本書はビジネス書の出版社から出しているのですが、高校生にも是非読んでほしいと思っていますので、たいへんうれしいことでした。
世界史「超要約」セミナー
そして、『一気にわかる世界史』の内容をベースにして、世界史5000年の大きな流れを半日(4時間)で、私そういちが一気に解説するというセミナーも時々開催しております。会場は西新宿で、次回は2019年10月26日土曜日。関心のある方は、当ブログのつぎの記事をご覧ください。よろしくお願いします。 【この回は終了しました。次回は未定です】
「中心をおさえる」世界史の具体的な記述はこちらの記事で。
世界史の通史などについてのおすすめ本のご案内 。
世界史の基礎となる地域区分、時代区分、民族系統などの概念については、これらの記事を。
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