そういち総研

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ヨーロッパとは何か・その定義

世界史を理解するための基礎知識に、「ヨーロッパ」という概念がある。ヨーロッパとは何かを理解するには、カトリックや東方正教などのキリスト教についての知識が必要である。そして、それらの宗派の成立の背景には、ローマ帝国の歴史もかかわっている。また、言語の分類についての知識も重要だ。現代における経済の発展状況という視点もある。つまり、「ヨーロッパとは何か」について学ぶと、世界史についてのさまざまな知識に触れることになり、視野が広がるのである。

 

目 次

 

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そもそも「ヨーロッパ」とは何なのか?

地理学者のジョーダン夫妻によれば、ヨーロッパとは“住民がキリスト教徒で、インド=ヨーロッパ諸語を用い、ユーロポイドの身体的特徴を示す”地域なのだという。(『ヨーロッパ 文化地域の形成と構造』二宮書店)。ただし、これはアメリカなどの新大陸は除く。

「インド=ヨーロッパ諸語(語族)」とは、言語学上の分類である。ヨーロッパ諸国の言語は単語や文法にいろいろ共通性があり、それはインド北部の言語とも共通するので、こういう呼び方をする。「ユーロポイド」というのは、いわゆる白色人種のことである(コーカソイドともいう)。

以上を箇条書きでまとめると、こうなる。

(ヨーロッパの3条件)
1.住民の多数派がキリスト教徒
2.一般にインド=ヨーロッパ語族の言葉が用いられる
3.住民の多数派がユーロポイド

こういう要素が重なって存在するのは、ロシアのウラル山脈からギリシアにかけての線よりも西側の地域である。そこが「ヨーロッパ」というわけである。

 

ヨーロッパの範囲

以上の3条件を満たす範囲を地図で示すと、以下のようになる。
(T.G.ジョーダン=ビチコフ、B.B.ジョーダン『ヨーロッパ』二宮書店より) f:id:souichisan:20190915151404j:plain


青い斜線の部分が、上記の「ヨーロッパの3条件」のすべてを備えている範囲。むらさきの線は、「ロシアのウラル山脈からギリシアにかけての線」。この線よりも西側を「ヨーロッパ」とするのが伝統的な地域区分である。

そして、その伝統的な区分には、一定の根拠があるということだ。むらさきの線の西側と「青い斜線」は、大きく重なりあっているのだから。

なお、青い斜線の一部が、むらさきの線を大きく超えて日本の近くまで伸びている。これはこの数百年の比較的新しい時代に、ロシアが東へ領土拡大していったことで、こうなったのである。

また、上の地図でむらさきの線の東側の地域のなかに、青い斜線でない部分があるが、これはフィンランドとハンガリーである。これらの国は、キリスト教とユーロポイドが主流だが、言語がインド=ヨーロッパ語族ではないのである。フィンランド語とハンガリー語という、「ウラル語族」に分類される言葉が使われている。

さて、「ヨーロッパの条件」としてとくに重視されるのは、キリスト教である。先ほどのジョーダン夫妻も“ヨーロッパを定義する人文的特性のうち、最も重要なものはキリスト教である”と述べている。

ヨーロッパとは「ユーラシア(アジアからヨーロッパにかけての広い範囲で「旧世界」ともいう)のなかの、キリスト教徒が多数派である地域」といってもいい。ほかに南北アメリカ大陸でも、キリスト教徒は多数派なので「ユーラシアのなかの」という限定がつく。


ヨーロッパの西と東

そして、キリスト教には2つの大きな宗派がある。「カトリック系」と「東方正教系」である。「プロテスタントは?」と思う人がいるかもしれないが、プロテスタントはカトリックから枝分かれしたものなので、ごく大まかにいえば「カトリック系」なのである。キリスト教の宗派はほかにもあるが、この2つが圧倒的である。

そして、ヨーロッパはこの宗派の分布にもとづいて、大きく2つに分けることができる。カトリック系(プロテスタント含む)が主流の西側の地域と、東方正教系が主流の東側の地域。それが「西ヨーロッパ」と「東ヨーロッパ」である。「西欧」「東欧」ともいう。

 

カトリック・プロテスタント・東方正教会の分布
(そういちの著書『一気にわかる世界史』より。『ヨーロッパ』二宮書店に基づく)

 f:id:souichisan:20190915152748j:plain

 

カトリック系が主流なのは、イタリア,スペイン,フランスなどである。ただし、同じヨーロッパの西側でも、北部のほうのドイツ、イギリスなどでは,プロテスタントが主流である。

東方正教系が主流なのは、ギリシア、旧ユーゴスラビア、ブルガリア、ロシアなどである。

カトリックには、「ローマ法王」というトップがいる。各地のカトリックの教会は、最終的にはローマ法王の権威に従う。

プロテスタントは、カトリックの中から1500年代に生まれた。ローマ法王の指揮から離れて独自の道をいく人びとが、新しい宗派をつくったのである。「プロテスタント」とは「(既存の教会に)抗議する人たち」という意味だ。

東方正教のトップには、伝統的に「コンスタンティノープル総司教」という存在がある。ただし、現在はローマ法王のような権限はない。ギリシア正教の教会は、地域や国ごとの独立性が強い。

「地域ごと」という点は、プロテスタントも同様である。プロテスタントでは、カトリックのようにはっきりした頂点があるわけではない。


言語もちがう西と東

ヨーロッパの西と東のちがいは、宗教だけではない。言語もちがう。西ヨーロッパの言語は「ラテン語派」と,「ゲルマン語派」という系統が主流である。イタリア語、フランス語、スペイン語は「ラテン」で、英語やドイツ語は「ゲルマン」で、一方、東ヨーロッパは「スラブ語派」(ロシア語,ポーランド語など)である。

これらの「〇〇語派」というのは、最初のほうの「ヨーロッパの定義」で出てきた、「インド=ヨーロッパ諸語」のなかでの分類である。

このように地域区分には,「宗教や言語にもとづいて分ける」というやり方がある。宗教も言語も、「文化」のだいじな要素である。そこに共通性があれば,文化のそのほかのいろいろな面で共通性があるはずだ。逆に、宗教や言語が大きく異なっていれば、文化全般の異質性も大きいはずだ、と考えられる。

このように「地域区分」には、一定の根拠がある。勝手に線引きしたのではない、ということだ。

 

カトリックと東方正教の成立

2大宗派ができた経緯についても、少し述べておく。そこには、ローマ帝国の分裂・崩壊ということが関係している。

キリスト教は、2000年ほど前にローマ帝国のなかで生まれた宗教である。その後、帝国のなかで広く普及し、西暦300年代には国をあげて信仰する「国教」になった。そのころには、カトリックや東方正教という宗派はまだない。

そのもとになるグループはあったが、完全に分裂してはいなかった。それぞれのグループは、考え方にちがいはあっても、教義についての統一見解をまとめるために話し合ったりしていたのである。

その後ローマ帝国は衰退し、西暦400年代には帝国の西側の地域で体制崩壊がおこった。2つの(完全に分裂した)宗派は、それから数百年のうちにできていった。カトリックと東方正教の分裂が決定的になったのは11世紀のことだとされる。

「帝国の西側」というのは、「西ローマ帝国」という。今のイタリア、フランス、スペイン、ドイツ、イギリスなどを含む地域である。西ローマ帝国だった地域では、体制崩壊のあともキリスト教が信仰され続けた。そのなかでカトリックという宗派は成立したのである。そして、この地域に新しく生まれた国ぐにで定着していった。それらの国のいくつかは、現在の西ヨーロッパ諸国につながっていく。

一方,ローマ帝国の「東側」というのもある。ギリシア、ハンガリー、ブルガリアなどの地域である。こちらは西ローマ帝国の崩壊以後も、帝国の体制が後の時代まで残った。これを「東ローマ帝国(あるいはビザンツ帝国)」という。この国は、衰退しながらも1400年代まで存続した。

東方正教は、東ローマ帝国のなかで生まれた宗派である。そして、帝国とその周辺へ広がっていった。「コンスタンティノープル大司教」のコンスタンティノープルは、東ローマ帝国の首都である。

ローマ帝国の「西側」と「東側」は、西ローマ帝国の崩壊以後、互いの交流が以前よりは減って、別々の道を歩んだ。その結果、それぞれのキリスト教を信仰する「西ヨーロッパ」と「東ヨーロッパ」ができていった。


現在の経済状態のちがい

そして、ヨーロッパの西と東のちがいは、文化的なものだけではない。現在の経済の状態にも差がある。「地域」がちがうと、いろんなことがちがうのである。だから、区分する意味がある。

今現在、経済発展がすすんでいるのは、西ヨーロッパのほうだ。イギリス、フランス、ドイツ、イタリアなど、世界の「主要先進国」といえる国は、ヨーロッパではどれも「西」にある。

「東」には、「先進国」と明確にいえる国は、今のところ存在しない。「ロシアはどうなの?」と思うかもしれないが、イギリスの1人あたりGDPが4万4000ドル、ドイツが4万2000ドルであるのに対し、ロシアは9200ドル(2015年)。経済の発展度は、西ヨーロッパの先進国にくらべるとまだまだである。

EU(ヨーロッパ共同体)は、発足当初の1990年代は西ヨーロッパの国ぐにだけで構成されていた。経済発展のすすんだ先進国どうしで集まったのである。その後、2000年代に入ると東ヨーロッパのなかで経済発展のすすんだ国(ポーランド、チェコ、スロバキアなど)もEUに加わった。しかし、EUが西ヨーロッパ中心であることは,今のところ変わらない。

このようにヨーロッパは「キリスト教の2大宗派」という視点で西と東に分けることができる。しかし,カトリックが主流でも「東」に含めるのが一般的な国もある。ドイツの東どなりにあるチェコやポーランドなどはそうだ。

これとは逆のパターンがギリシャである。東方正教が主流でも、「西」に含めることが多い。それぞれ、それなりの理由があるのだが、ここでは立ち入らない。大切なのは、このように「地域区分には微妙なケースというのが常にある」ということだ。

 

参考文献

①T.G.ジョーダン=ビチコフ、B.B.ジョーダン『ヨーロッパ』二宮書店、2005年 

ヨーロッパ―文化地域の形成と構造

ヨーロッパ―文化地域の形成と構造

  • 作者: T.G.ジョーダン=ビチコフ,B.B.ジョーダン,Terry G. Jordan‐Bychkov,Bella Bychkova Jordan,山本正三,三木一彦,石井英也
  • 出版社/メーカー: 二宮書店
  • 発売日: 2005/10/01
  • メディア: 単行本
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ヨーロッパを含む世界全体の地域区分については、当ブログのつぎの記事を。